トイレの排水管で逆流が起こるメカニズムを理解することは、詰まりの原因を特定し、適切な対処や予防を行う上で役立ちます。トイレを流すと、タンクに溜められていた水が一気に便器内に放出され、その水圧によって便器内の汚物とトイレットペーパーが排水口から排水管へと押し流されます。便器の排水口の先には「S字トラップ」または「P字トラップ」と呼ばれる二重にカーブした構造があります。このトラップ部分には常に水が溜まっており、下水道からの悪臭や害虫が屋内に侵入するのを防ぐ「封水」の役割を果たしています。トラップを通過した排水は、床下や壁の中を通る排水管を経て、最終的に建物全体の下水管や下水道本管へと流れていきます。逆流が発生するのは、この排水経路のどこかで水の流れが阻害される、つまり「詰まり」が発生した場合です。詰まりが発生すると、それより上流側に流れてくる水や汚物がせき止められ、行き場を失います。そして、行き場を失った水が、最も低い位置にある便器の排水口から逆方向に押し戻されてしまう現象が逆流です。詰まりが発生しやすい箇所はいくつかあります。まず、便器の排水口やトラップ部分です。ここは異物が最初に引っかかる可能性が高い場所です。トイレットペーパーの使いすぎや、水に溶けない異物を流してしまった場合、この部分で詰まりが起こりやすいです。次に、トラップから先の横引き管（床下などを通る水平または緩やかな勾配の管）です。ここで油分や尿石、髪の毛などが蓄積したり、異物が引っかかったりして詰まりが発生することがあります。特に勾配が不適切だったり、カーブが多かったりする配管では詰まりやすい傾向があります。さらに、集合住宅の場合は、各住戸からの排水が合流する共用排水管での詰まりも逆流の原因となります。共用排水管は、多くの排水が流れてくるため、汚れが蓄積しやすく、特に油分や固形物が原因で詰まりやすい場所です。共用排水管が詰まると、下階から順に影響が出て、最悪の場合、階下の住戸の排水が上階の住戸のトイレに逆流してくるという恐ろしい状況も起こり得ます。屋外の排水システム（雨水マスなど）の詰まりが、建物の排水システム全体に影響を及ぼし、屋内のトイレ逆流につながるというケースも稀にあります。